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頂きもの展示室
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 11    ぜったいに見られたくはない (アチスイ小説・SBSさまより)※
更新日時:
2010.08.12 Thu.
 
 
「…ふ…ぁあ…ぁ…、…うぅ…」
 開かされた尻の谷間をぬるぬると擦る、執拗な熱に声を殺す。
 腰下に押し当てられる彼の欲情。普段なら性急に己を求めるそのものは、珍しいことに、今日はまだ一度も奥底を開いてはいない。誇示されつつも未だ行使されざる欲望に、恥ずべき衝動におぼれた頭のどこかで、もどかしいと苛立ちが募る。
 べたつく液体にまみれた掌が、下肢の間に伸ばされる。ああ、また、後口には触れず至らされるのだ。もはや諦めにも似た確信とともに、促されるまま脚を開く。
「…ん…ぁぅ、あ、」
 途端、屹立を握り込む手の動きが激しくなる。消し去りきれない揺らぎを漏れ出でるまま溢れこぼし、目が眩むほどの起こす息苦しさに、喘ぐ。
 ときどき思うけれど、どうして人間という生き物は、こんなに残酷な真似が出来るのだろう。
 
 
 お互いを性欲の解消相手として選んだのに、深い理由はなかったと思う。
 きっかけは些細なことだった。ほとんどもう、記憶にもない。たまたま宿に二人取り残されたおり、世間話のつもりで振られただろう『そういった類』の話題に、己が過剰な反応を示したのがいけなかったらしい。売り言葉に買い言葉の応酬であれよあれよと事態が進み、押し流されたその後には、よくある既成事実しか残らなかった。有り体に言えば、本来好きあった異性と行う営みを、何の因果かむくつけき仕事仲間と再現してしまったことになる。
 今となっては思い出したくもないそれを、野犬に噛まれたような、誰にでもあるあやまちとして捉えられるのは一度までだ。何をどう勘違いしたのか、その後も彼は、しばしば自分に欲求不満の矛先を向けるようになった。どうせ抱くならば素直に女を探せばいいだろうに、そんな説得が通じると思っていた己の甘さは、振り返ってみると笑わずにはいられない。
自分にしてみれば強姦と呼んでも差し支えのない二度目の後、衣服を整える彼の手は妙に優しかった。純粋に快楽の追求だけで考えるのならば、互いにとって決して損な話ではないのだ。そう嘯いた彼に反論しなかったのは、疲弊しきった脳がこれ以上の労働を拒んだせいだけではないかもしれない。少なくとも、途中から抵抗らしい抵抗を試みなかった手前、己とて彼の性癖を声高に追及できる立場にないのだろう。
呼ばれるたびに抱かれ、女のように泣かされて、身体も精神も為すがまま弄ばれる。さほど頻繁ではない、配慮してやっている、と彼は言うものの、森暮らしの長かった己からすれば乱痴気どころの騒ぎではない。
とりわけ近頃はどこで手に入れてきたのか、妙な小道具をあれこれと持ち出してきては、満足ゆくまで交情のなかで試す。悪知恵を仕込んだのが誰なのか、うすうす想像は出来るものの、確認などする気にもならない。ろくでもない結果をわざわざ手元に引き寄せるほど、自分に被虐趣味はない、はずだ。
ともあれ、出所までは追及しないにしても、もののやりように注文を付けるくらいは許されるだろう。自由時間にかこつけ、いつものように身も蓋もない情事を始めようとした彼に、そんな思いから先手を打って不平をぶちまけたのは数刻ほど前になる。勢いに任せて洗いざらいまくし立てた恨み言に、余計な口を挟まず耳を貸していた彼の姿を、今にしてみればわずかでも疑うべきだったかもしれない。
『つまりわたしは、もう少しお前を労わるべきだというのだな』
 頷いた彼の表情は、こんな時だけ無駄に神妙だった。
『では、善処しよう。今後は出来る限り、お前の身体に負担を掛けないようにする』
 
 
 その言葉を信じた結果がこれだ。
 
 
「…ぅあ、あ、…っ、ふ、…っ、――っ、」
 泣き喚く気力もない。幾度目か数えるのも忘れた絶頂に、ぱちゃり、とうすい体液が内股を濡らす。じわじわと爪先から這い上がる快感に犯されて、腰はおろか、膝さえも震えが止まらない。
 跳ねた飛沫を受け止めた掌に、そのまま、太腿を撫で回される。吐精のたび塗りつけられた名残と、身体中に擦り付けられた油薬が交じり合ったそこは、正視できないほど汚れて淫らがましい。てらてらと濡れ光る素肌から、唾液のように糸を引きしたたる欲の有様を、どうしたら思考の外に追い出せるだろうか。
「あ…ぁ、…アーチ、ボルト…も…やめ、…わたし…」
「お前が望んだことだ」
「…ふぁ、…あぁあ…」
 尖った耳の先端を食まれ、ぞくぞくと背を駆け上がる情欲に悶える。もう、いやだ。拒む意識と裏腹に本能は頭をもたげ、ぬるついた白濁に包まれながら反応を示す。背後から覆い被さられ、一人だけ延々と快楽を与えられるむなしい行為を、いつ自分が望んだというのか。
「わたしの調子で進めるのが嫌なら、お前の調子に合わせるしかない。違うか?」
「…わたし、は、…こんな、こと…のぞんで、など、」
「『一日のうちに何度も何度もふしだらな真似をするなど、畜生でもしないあさはかな振る舞いだ。わたしはお前に人間らしい節度を要求する』。…さっき自分で言ったことも忘れてしまったか?」
 だからまだ今日は、一度もお前と交わってはいない。心なしか誇らしげに告げられた言葉に、そういう意味ではないと叫びたくなる。自分はただ、性欲の処理をするならば最低限の手間で済ませろと、それだけを求めたつもりだったのに。
「…この、けだもの、…けだもの以下だ、おまえなど…」
「では、そのけだもの以下に付き合うお前は、何だ」
 むしろ詰られるのも楽しいとばかりに、耳元で彼が笑う。下肢を抱く腕が喉へと伸び、起伏のない胸の敏感な部分を探る。肌という肌にくまなく広げられた油のせいか、いつもより、感覚が尖っている気がする。ざらざらとした指の腹に頂点を抓まれ、軽く転がされるだけで、差し出した腰が砕けそうだ。
「いろぐるい」
「…うる、さい…っ、…ぁ、あぁ!」
 後口のすぐ上を、いきり立った肉棒が掠める。瞬間、聞き覚えのある水音とともに、股下をたらたらと温かいものが伝った。また、達してしまった。途切れなく与えられる快楽はもはや拷問めいて、合間を探すことすら覚束ない。慣らされた知覚はささやかな刺激にさえも酔い、とろりとろりと、先走りに裸体を汚す。
「安心しろ。お前が望みでもしない限り、これ以上『ふしだらな真似』などしない。…わたしとて、一応は『人間らしい節度』の持ち主だからな」
 嘘だ。思うものの、思うように言葉は出ない。溢れ出る淫らの悦びに喉も唇も溺れて、口ずさむ呟きは嗚咽にしかならない。己のものとも思えぬ、おぞましいほど甘い声音に耳を塞ぎたい。願いつつ身体はその声にさえ焦らされて、一途に、熱を求めている。
「どうする、スイフリー」
 ぼそぼそと低い声が耳を打つ。どうもこうもない。ここまで追い詰めておいて最後は自分で選べ、などと、これほど残酷な話があるだろうか。どうしたって自分は、結局、彼に身を委ねずにはいられない。仲間ではあれ友人ではあれ彼我の間に恋情が介在する余地はなく、まして、これから先芽生える当てもないというのに。
 どうして人間は、こんなに残酷な真似が出来るのだろう。身体だけの付き合いであるはずの己に、なぜ、恋慕をおもわせる声で囁くのだろう。考えて、わかるはずもない。わかりたくもない。ゆく先に二度とは逢えぬ別離があるならば、心を通わせる隙間など最初からない方がいい。
 遅々として告げられぬ答えを促すように、ごつごつとした掌が喉を撫でる。言葉など期待しないで欲しい。ぬらぬら、擦れ合う腰を押し付け、言外に求められた答えを示す。彼が欲しいわけではない。彼の持つあたたかな熱が欲しいのだ。欲得にまみれた要求は思慕を含まない、だからこんな関係は、思い合う恋人でも何でもない。
声もなく繰り返して呟きながら、宛がわれた熱情に身を任せる。伏せた顔をぜったいに見られたくはない。
閉じた瞼を割って溢れるものは、きっと、涙ではありえないのだ。
 
 
 
SBSさん渾身のぬるぬるぷれい本番なし。
明らかに間違った方向に道楽しているアーチ−さん。
 


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