「…断られました」
信じられない気持で、スイフリーはその言葉を聞いていた。目の前で、申し訳なさそうに金髪のファリス神官が頭を垂れる。
「すみません。私も、手を尽くしたんですが、…いくら、救国の英雄とはいえ、悪の枢軸の国の者を、救うことはできないと」
「……………は?」
目の前が白く点滅している。吐き気も酷い。だが、倒れることはできなかった。
早くしなければ。早く、儀式を行って貰わなければ困る。
死者蘇生は、死の瞬間から遠ざかれば遠ざかるほど、成功率の下がる儀式なのだから。
「…なにを、…馬鹿な、」
金はある。人の寿命では、使いきれぬほどに有り余っている。ならば、あとは人脈と信用だ。それも、十分すぎるほどにある、…ある筈だと、思っていた。
「冗談だろう」
「…残念ながら」
こんな時さえも、律儀に彼女は答えてくる。判っている、そんなことは言われなくても知っている、この国の連中の頭の固さと、不人情さなど。
だが、棺桶を抱えて立ちつくす相手にまで、こうも冷たく徹するとは。
…だから、言ったのだ。あれほど、金で命を拾えると思うなと。そして、注意しろ、と。あの厄介な策士は、今度は確実にこちらの命を狙ってくるに違いないのだから。
「…………」
ふらりとよろけると、丁度良い位置に寄りかかれるものがあった。
ああ、辛い。ただ立つことの、なんと難儀なことか。
自分の寄りかかっているものが、一体何なのか、薄々感じながらも振り返る。
そこには、生木でできた、大きな箱と、
の愛用していた、剣が、
「―――――――ッ!!」
そして今日も、エルフは悪夢の終わりと共に朝を迎える。
最悪の気分で。
|