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 7    バブリーズ・リベンジ 1−6
更新日時:
2010.05.11 Tue.
 
1−6 「…お前、本当にこういう下らない儲けが好きだな」
 
 
 
 
 アーチボルトは向かい合った男の手札を、じっと眺める。擦り切れたカードだ。それに隠されて、相手の顔は見えない。男の背後で、ばさり、と鳥が羽を揺らすと、アーチボルトは卓上に伏せられたカードを1枚捲った。軽い音を立てて、カードが卓を叩く。
 
「…あ、ありえねぇッ!」
 
 その指先にあるカードを見て、相手の男は激昂した。カードが飛び散る。銀貨の山が崩れる。周囲の観客達も、どよどよとざわめいた。アーチボルトの一手で、男の負けが確定したからである。一度目ではない、数度目の決定的な負け。男は、この酒場でも有名な博打打ちであるにも関わらず、だ。
 
「貴様、サマしやがっただろう!?でなきゃ、こんなに勝ちが込むわけはねぇ!」
 
「おや、これはおかしなことを」
 
 観戦を決め込んでいたグイズノーが、にやり、と盗賊顔負けの悪党顔で笑う。
 
「何か、イカサマの証拠でも?そうでなければ、タチの悪い言いがかりですよ、あなた」
 
「なんだとっ!?お前、一番怪しいのはお前だぞ!お前が、こいつと組んでオレの手持ちをばらしやがったんだ!」
 
「はっ、語るに落ちましたね。サマの証拠もなく、私達がグルだと。結構、結構。
 なら、他の方々にも聞いてみましょうか。どちらが勝者か、…そして、あなたが今までどんな手口で新顔から金を掠め取って来たのか?」
 
「ぐ、」
 
 途端、男は顔を歪める。それは、グイズノーの発言を認めてしまったも同じことであった。勝ち誇った顔で、神官は邪悪な笑みを浮かべる。
 
「さて、それではお支払願いましょうか。あなたの有り金。
 まぁ、身上が破滅するわけじゃなし。安いものでしょう?」
 
 
 
 
 
 
「いやぁ、中々持ってましたねぇ、あのチンピラ」
 
 グイズノーが嬉しそうに銀貨の詰まった袋をしまう。しめて2000ガメル。彼らバブリーズにとってみれば大したことの無い金額だが、一般人から見れば、宿屋暮らしでも一月以上遊んで暮らせる額だ。それをただ一度の博打で掠め取られた方はたまるまい。…最も、無謀な勝負を仕掛けてきたのは向こうだったわけだが。
 
「…お前、本当にこういう下らない儲けが好きだな。グイズノー」
 
「罪もない悪戯ですよ。ふふふ」
 
 福々しい顔にいつもの笑いを浮かべ、傍らの青い鳥を撫でた。青い鳥は、嫌そうに顔を背けている。そもそも、彼らが一目で盗賊と判る博徒から、いんちき勝負を持ちかけられたのは、その重い財布を見られたからなのだ。この青い鳥を衝動買いした時に。
 
「大体、こういうものは自分の分を弁えることが肝要なのです。
 相手の実力も判らず、イカサマを見破る目も持たず我々に勝負を挑むとは。片腹痛い」
 
「威張るな。あの男と勝負をしたのは私だし、サインを送ってきたのはそこの彼だろう」
 
 アーチボルトがびしりとフォークを突き付けるのと、鳥がグイズノーの手をつつくのは同時だった。悲鳴ともに、「やれやれ」と青い鳥が卓上を移動してくる。
 
「…脂のついた手で触らんで貰おうか。手入れが厄介だ」
 
「ちょっ、…あなたねぇ、スポンサーに対してその態度はないでしょう!」
 
「金を出したのは、こちらのアーチボルト氏だろう。スポンサーは彼だ」
 
「さすが、よく理解している」
 
 アーチボルトがつまみの木の実を差し出すと、青い鳥は恭しくそれをつつく。歯噛みするグイズノーは無視しつつ、アーチボルトは内心感嘆していた。
 青い鳥は、本当に賢かった。彼を商人から買い受けた直後、怪しい勝負を持ちかけられた折、当然のように断ろうとするアーチボルトに、青い鳥は囁いた。
 
『どうせなら、私の仕事ぶりを確かめてみないか?』
 
 左右の羽の羽ばたきでハート、ダイヤ、クラブ、クイーンを。瞬きの回数で数字を。簡単な取り決めをしてから勝負を始めると、あれよあれよと言う間に勝ちが重なった。おかしい、と思い始めた相手がイカサマをしようとすれば、そのタイミングを伝えてきた。おかげで、相手の男は得意のそれを使うこともできず、惨敗だったわけだ。
 
「一体、お前は何者なのだ?」
 
「言っただろう。ただの喋る鳥だよ」
 
「…それにしては賢すぎるな、まるで人間並み、…いや、並み以上だ」
 
「彼の正体については、ラーダ様にお尋ねしたいところではあるんですが…生憎、今日朝のお祈り忘れちゃったんですよねぇ。私の知識には、しゃべる鳥に該当するものは…ハーピーぐらいですか」
 
「あんな汚らわしいモンスターと一緒にするな」
 
「…知識も賢者並みのようだな」
 
「益々謎ですねぇ」
 
 中断していた食事を再開しながら、グイズノーは首を傾げる。青い鳥は大きな嘴で木の実の殻を割り、器用に中身をつついている。
 
「…ところで、アーチボルト氏。あなたは、もしかして騎士なのではないかな?」
 
「ん?何故そう思う」
 
「先ほどの会話で、ウィムジー家という言葉が聞こえたのでね。ウィムジー家といえば、オランでも有名な賢者の家系。その子孫のアーチボルトといえば、アノスで武勲をあげた高名な冒険者だった筈だ。…いや、失礼、ウィムジー卿とお呼びするべきだったかな」
 
「む、…そう畏まることはない。まぁ、そうか、バレてしまっては仕方ないな、はっはっは」
 
「ちょっと、アーチー。あからさまなお世辞に惑わされないで下さい。暫定・青い鳥の謎モンスターが、我々の正体を知っていたんですよ?もうちょっと警戒したらどうです」
 
「何のことはない。私を連れていた商人が、長らくオランに滞在していたのだ。そこで聞いたのだよ」
 
 そこで言葉を切ると、青い鳥はこつこつと卓上の酒瓶をつついた。まさか、と思ったグイズノーが細い目を見開くと、「ついでくれ」と鳥は言う。
 
「…酒まで飲むんですか、あなた。生意気な」
 
「喉が渇いたんだ。…ああ、その皿に注いでくれ、少しでいい」
 
 ひと時言葉を切ると、青い鳥は嘴を皿に突っ込み、ちゅうちゅうと酒を飲み始めた。なんとも行儀よくそれを嗜むと、彼はアーチボルトに向き直る。
 
「ウィムジー卿。先ほどの私の働きを見て頂いた上で、お願いがある。
 私を雇ってもらえないか?」
 
「雇う?」
 
「そうだ。現在、私は人を探していてね。そのために、どうしても必要なものがある。それを報酬として頂きたい」
 
「そのモノによるな。我々が手に入れられんようなものなら、どうしようもない」
 
「あなた方がかの高名な『バブリーズ』であるなら、簡単に手に入るものだ」
 
「ほほう。言ってみたまえ」
 
「魔晶石、20点分」
 
 頭の中で、素早くアーチボルトは計算する。20×20×100…40000ガメル(完全版準拠)。
 結構な大金だ。…普通の人間の感覚で言えば、だが。
 
「…なるほど、確かに我々には手に入らなくもないものだ」
 
「しかし、大金ですよ」
 
「まぁ、確かにそうだな。だが、私が気になるのはその価値ではない。理由だ。
 何故、魔晶石が必要なんだ。これを、何に使う?」
 
「………」
 
 そこで、初めて青い鳥は口ごもった。まるで困ったように首を傾げ、数秒間、黙る。
 
「…報酬を、銀貨で支払われても、私には持ち運びできない。
 魔晶石なら、かろうじてそれが可能だ」
 
「……なるほど」
 
 納得したわけではなかったが、一応の筋は通っている。引きさがるアーチボルトに、「ええッ!それだけですか!?」とグイズノーが突っ込んだ。
 
「ちょっと、アーチボルト!まさか、本当に雇うつもりじゃないでしょうね?」
 
「まぁ、待て。先ほどお前も言ったじゃないか。好奇心に逆らうな、と」
 
「あの時とは出費の額が違うでしょう」
 
「小遣い銭程度、という意味では同じようなものだ」
 
「しかし…」
 
「決断を躊躇っておいでなら、もう一つ、とっておきの情報をお付けしよう」
 
 再び、青い鳥が二人を見上げる。
 
「ここから街道を10キロ、オラン側に下った森の中。面白いものがあった」
 
「…………」
 
「…………」
 
 まぁ、行ってみれば判る。思わせぶりなセリフに、人間二人は再び顔を見合わせる。
 
「…10キロぐらいなら、半日で済むな」
 
「…スイフリーには、早く帰るよう言われてるんですけどねぇ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
なかなかお使いから戻らないおっさん二人組。
そろそろエルフさんが焦れてそうです。
 
 


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